自然歩道には藪が密集する (東京) 2004年8月21日


 地元で見つけた小さなもんじゃ焼屋で友人と飲んでいた。店主は50代くらいのおばちゃんで、私たち以外に客はいない。
 店内の壁には登山中に撮ったような団体写真と、プロが撮ったと思えるような高山植物の写真が飾られていた。

 その事についておばちゃんに聞いてみると、暇そうだったおばちゃんは私たちのテーブルに加わり色々と話し始めた。
 登山クラブに加入しているおばちゃんは、月に1、2回山登りに行ってるのだという。植物の写真も、その中の写真好きのメンバーが撮ったものらしく、プロが撮ったみたいに綺麗だということで店内に飾っていた。

 おばちゃんたちクラブが歩いている登山道は、東海自然歩道というものだった。この登山道はスタート地点が東京の高尾山にあり、そこから大阪の箕面まで続くという全長約1300kmにも及ぶ歩道。
 おばちゃんたちクラブはその東海自然歩道を長い期間をかけて踏破中であり、現在は静岡だか愛知まで来ているのだと、嬉しそうに語っていた。

 日本にもそんな登山道があったのかと初めて知った私は、その東海自然歩道にえらく興味が沸いた。この話題で盛り上がり始めた私と友人は酒の勢いもあり、
「俺たちもその登山道を制覇しようじゃないか。最初は二人でも、内容を知れば興味も持つ仲間が増えるだろう。まずは日帰りからだな」と、近いうちに出掛ける事を合意した。

 家に帰りネットで東海自然歩道を調べるとかなり情報も得れたので、翌週には早速スタート地点である高尾山の登山口に立っていた。
 そこにあった看板によると、東海自然歩道は『明治の森高尾国定公園』と大阪の『箕面国定公園』を結ぶ、緑豊かな自然と貴重な歴史を伝える文化財をたずね、心身の健康と安らぎを与える全長1342Kmの長距離自然歩道とのこと。

 出発前の宴として昨晩も遅くまで飲んでいた私と友人は完璧な二日酔いで、気を緩めれば今にも吐きそうな状態。
 しかし、ここまで来たのだし、看板にも「心身の健康と安らぎを与える」と書いてあるので、歩いていれば復活するに違いないと、スタートからいきなり勾配がきつい坂道を登りながら、さらに状態を悪化させた。

 高尾山の山頂からはそれ程勾配はきつくない登山道になった。周辺には新鮮な空気や緑が溢れているが、私たちの体内には未だアルコールが溢れているので、リフレッシュにもならない。

 そんな山道をTシャツと短パンといった格好で、トレーニング代わりに走っている者を見かけた時には、思わずゲロしそうになった。
 登山口から3時間くらいで城山の山頂に到着。木製の椅子やテーブルが茶屋の前に並んでいたので、そこで自炊をして昼飯を済ませると2時間ほど眠りに就いていた。

 おかげでアルコールも抜けて体調も回復。ここからは下りともあり、ようやく足取りが軽くなった。麓に相模湖が見える景色を眺めながら快調に下り、相模川に架かる弁天橋という吊り橋まで来た。
 そこにあった貸しボート屋のおばちゃんの話では、自然歩道も出来た当時は人気があったが、最近はここを通る人も珍しいとのことだった。

 さらに進むと相模湖湖畔に出たのでここで終了にしようとしたが、元気になった私たちはもう一つ山を越えれるだろうと、次なる嵐山へと登っていった。これがまた大誤算で、標高は高いくないが、勾配のめちゃめちゃきつい山だった。

 嵐山山頂からの下り道では、どこが歩道か分からなくなる場所や、身長以上に伸びた藪を掻き分けて進む場所などもあった。ボート屋のおばちゃんの話のように、最近は人も歩かず手入れもされていないようだ。まあ、この方が本当の自然歩道で面白くもあるが。

 そんな道を進んでいくと相模湖ピクニックランドの入口脇に出たので、そこで自然歩道制覇の初回は終了となった。地元に戻った私たちは、こんな調子でこの先もやっていこうではないかと、二日酔いに凝りもせずまた宴を上げた。

 その後はどちらからも第二弾の計画が上がる連絡もなく、自然歩道制覇の計画は自然に消滅。今となってはそこにも藪が密集し、誰も掻き分けて進もうとする者はいない。




Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved