序章


 沖縄を歩いて旅したのは2ヶ月前。旅を終えたらすぐにウォーキングからワーキングの日々に切り替える予定だったが、未だ社会復帰は出来てなく、相変わらずだらだらと毎日を過ごしていた。

 このままではイカンと職探しアンテナの受信レベルを高めていると、新聞で林業研修生の募集という文字をキャッチ。
 記事を読んでみると、近年の林業就労者は減少しており、人手不足や高齢化が著しいとのこと。そんな問題を解消するため、県が林業の基礎技術習得プログラムを行うとの内容だった。

 研修期間は日当も出るし、終了後には本格雇用への誘導もある。数日後に説明会も開かれるとのことだったので、まずはそこへ足を運んでみた。

 研修生の採用人数は30名。だが、新聞の記事は小さかったので、あまり目にした人はいないだろう。そんな呑気な考えで説明会の会場に入ってみると、なんと予想に反して100人程が集まっていた。
 この時点で採用する確立は既に3割。おまけに説明会に来なくても応募は出来るので、さらなる倍率が見込まれる。

 現状を目にして期待が薄れ、ほぼ諦め気分になっが、まだ落ちたわけではない。宝くじだって買わなきゃ当たらないのだから、とにかく出すだけ出してみようと、駄目元の軽いノリで応募した。

 採用結果は2週間後。それまでやる事がないので、この時間を利用して旅に出ることにした。金なしのプータローがチョイス出来る旅行は、費用がいらないテント泊の自転車移動に限る。

 ツーリングマップルの関東甲信越版をめくりながら目的地を探していると、旅アンテナが佐渡島のページで反応した。こちらのアンテナは職探しアンテナよりも遥かに感度が良く、訪れたことのない場所などはすぐにキャッチするのだ。

 地図を目算したところ佐渡島一周は約200kmなので、自転車なら3日で回れるだろう。自宅の神奈川からフェリーが出航する新潟の直江津までは5日。合計すれば2週間と、ちょうどいい日数になる。

 だが、佐渡島の3日間滞在に往復10日かけるのは割りに合わない。行き帰りは電車やバスとも考えたが、持っているチャリは折り畳み式じゃないので輪行は無理。そこで思い出したのが2ヶ月前の沖縄旅のこと。自転車が駄目なら歩くという手段があったのだ。

 沖縄では1日平均30kmの移動という早いペースで進み、一周約320kmを11日間で歩いた。佐渡島一周は約200kmなので、ゆっくり歩いても10日でいけるだろう。移動の前後を含めると、これも2週間とぴったり。

 この計画を候補に上げて島までのアクセスを調べてみた。フェリーは直江津港から佐渡島の小木港が結ばれており1日2便。これは奇数日と偶数日で出発時間が違う。直江津までは東京の池袋から高速バスがあり、こちらは便数が多くあった。
 この二つを使って佐渡島に行く最善の方法は、偶数日に池袋から深夜バスに乗って奇数日の翌朝5時に直江津に到着し、港から7時のフェリーに乗り込むというものだった。

 この時は偶数日だったので空席状況を確認すると、なんと一つだけ空席がある。これは旅の神様が「今すぐ佐渡島に出発せよ」と告げているに違いない。
 この座席を確保して、100円ショップで食料を調達。キャンプ道具一式をまとめ、その夜に沖縄旅の相棒だったキャリーカートのカート・二バーンV世と共に池袋へと向かった。 


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