ケチャ・ダンス (ウルワトゥ) 2007年4月19日〜23日


 ウルワトゥ寺院はバリ島の南端のジンバランから約10km。バドゥン半島の南西のはずれに位置する。ウルワトゥとは「岬」という意味で、名の通り寺院はインド洋の荒波が打ち寄せる70mの絶壁の上にある。その壮大なロケーションから、夕陽のスポットとしても人気が高い。

 寺院まではクタビーチでレンタルしたバイクで行った。寺院までのアップダウンのある峠道は、ツーリングとしても楽しめる。地図もなく交差点にある行先表示の看板だけを頼りに走ったのだが、案外迷うことなく1時間くらいでたどり着けた。

 寺院の入場には腰巻が必要で、入口で貸し出していた。10世紀に創建されたウルワトゥ寺院は高僧ニラルタゆかりの聖地。バリ六大寺院のひとつとしても有名なので、多くの参拝者を集めているという。

 私がここに来たのは観光が目的ではなく、この寺院の横で毎日18時から19時まで行われるバリ舞踏のケチャ・ダンスを見るためだった。

 ケチャはバリ芸術を発展開花させた、ドイツ人と現地の舞踏家が共同して創作した舞台芸術。サンヤンと呼ばれる伝統的な舞踏をベースにしているもので、モンキーダンスとも呼ばれ、同様のものは世界に他に類を見ないと言われている。

 ケチャ鑑賞の入場料は、寺院とは別に5万ルピアかかった。専用劇場からは、絶壁に立つウルワトゥ寺院やインド洋が見渡せる絶好のロケーション。劇も夕刻に始まるので、変わりゆく空の色も同時に楽しめる場所だった。

 劇が始まる18時前になるとツアーの団体客などが続々と集まり、あっという間に観客席は満席になった。この日は雨上がりの夕刻だったので空には雲が多くあり、見事な夕日までは見れなかったのが少々残念だった。

 劇が始まると「チャ・チャ・チャ」と口でリズムを刻んだ上半身裸の男達が現れ、円陣を組んで胡座になった。そして、手をかざしたり体を動かしたりしてダンスが進行していった。

 ケチャは踊りというよりも、むしろ人間が体で奏でる音楽と言う方が相応しい。1人1人の人間が楽器であり、口から色々な音階の「チャ・チャ・チャ」を発し、それがアンサンブルになっている。それに体で表現する踊りが加わり、独特のグルーヴが生み出される。

 しばらくすると、ラーマーヤナ物語を題材としたバリ舞踊の登場人物たちが円陣の中央の空間に次々と登場し、舞踊劇が行われていった。

 男たちはリズムを刻むだけでなく、手や体の様々な動きで劇の背景としての表現も行っていた。すっかり辺りが闇に包まれた終盤には悪者が焼かれるシーンがあり、派手に炎を上がらせる演出もあった。

 ケチャは映像などで見た事はあったが、実際この目で見て体感するのは初めて。人間が何も楽器を使用せず、あそこまで音楽を奏でられるのには驚いた。このケチャ・ダンスを見て、人間が持つ本来の能力を改めて思い知らされた。




Copyright (C) 2019 諸行無常 All Rights Reserved