過ぎたことは水に流す・前編 (群馬) 2012年4月29日


 川下りという旅の方法がある事を知ったのは、野田知佑氏の本を読んだのがきっかけだ。この人は日本のリバーカヤック・ツーリングの先駆者で、折り畳みが出来るファルト・ボートで日本や世界各地の川を旅している。
 そんな旅もしてみたいと思ったが、このボートの価格がピンキリで、安いものでも10万はする。簡単には手が出る物じゃないので、まあいつかにしようと頭の片隅に置いといた。

 それから数年後に、インターネットでキャンプ道具を探していると、インフレータブル・カヤックというゴムボートを売っているのを発見。畳んで持ち運ぶ事も可能だし、価格がなんと1万円とお手頃。性能は悪いだろが入門にはうってつけだと、即そのボートを購入した。

 初めてカヤックに乗ったのは10年位前。ネパールのポカラにあるペワ湖で体験した時で、それ以来は一度も乗ってない。今から練習するのも面倒なので、実践で覚えようと手始めに、神奈川県の相模川や東京の多摩川を下ってみた。

 流れが急じゃないので、慣れれば簡単なのもの。どちらも日帰りで、河口近くまで30km位移動した。2回やっただけだが既に1日だけでは物足りなくなったので、キャンプも兼ねた数泊の川下りをしたくなった。

 そこで目を付けたのが、日本で2番目に長い利根川。地図で調べると、群馬県の渋川辺りから千葉県銚子の河口まで200kmはある。渋川なら東京の新宿から高速バスが出ているのでアクセスも良いし、これなら4泊5日程の川下りが出来る。

 季節も暖かくなってきたので、その計画を実行しようと、天気の良かった2012年のゴールデン・ウィークに渋川へと向かった。
 夜に渋川駅に到着し、川でキャンプしようと歩いてる途中、サンダルの踵を抑えるバンドの一部が切れた。草履の緒が切れるのは縁起が悪いこと。何か嫌な予感もしたが、とにかく川に行ってテントを張った。

 暗いので見えないが、テントにいても川がゴウゴウと流れる音がする。おまけに隣には工場があり、その煙突からか機械音もブンブンと聞こえきた。
 翌朝、川を見てみると予想以上に流れが速く、川面の所々には岩も突出していた。のんびりとした川下りをイメージしていたが、これじゃまるでラフティングだ。

 川には自転車旅をしている人のテントがあり、私が川下りをするのを知ると、出発の手伝いをしてくれた。
 ボートに空気を入れて膨らますと、今度はシュウシュウと空気の漏れる音が。裏を調べると何とパンク箇所を発見。準備をするよりも、まずはパンク修理から始めなければならなかった。

 今回の旅は思い付いてすぐ出発したので、そんなチェックもしてなく、自分とボートを繋ぐロープも忘れていた。荷物の半分をキャリーカートに乗せてきたので、それを留めていたやや長めのゴムバンドは2本あった。それを使って荷物とボートとは結んでおいた。

 川は流れが速く岩場もあるので、転覆する可能性もある。ロープで繋いでないとマズイなとも思ったが、転覆しなければ平気だろうと、修理したボートに乗り込んで出発しようとした時、バランスを崩して自分が転覆。

 ボートは自転車旅の人が押さえていてくれたが、勢いのある川に私は数メートル流された。見た目よりも遥かに流れが速いので、これは用心していかねばと、次はしっかりとバランスを取ってスタートした。 (後編へ続く)




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