序章


 二十代の頃にママチャリで四国八十八ヶ所巡りをした事がある。寺を巡礼する風習が日本に古くからあった事をその時に初めて知り、四国以外にも近畿地方の西国三十三ヵ所、関東の坂東三十三ヶ所、埼玉の秩父三十四か所などがあることも分かった。
 いずれそれらも巡ろうと考えていたが、いつかいつかと先延ばしにしてる内にすっかり忘れ、随分と長い月日が経っていた。

 今年のゴールデンウィークは大型連休だったので、バイクでどこかへ行きたいなと思案してる時に、久々にその寺巡りを思い出した。ツーリングやキャンプも出来るので丁度良いと、関東に広がる坂東三十三ヶ所をバイクで巡ることを決定。

 寺は関東1都6県に点在しており、その総距離は約1300km。時間は4日間しかないので、1日に300kmは移動しなければ全ての寺を巡りきれない。
 かなりきつい日程になる事は予想出来たが、まあ何とかなるだろうと、食料とキャンプ道具をバイクに搭載して出発。

 坂東三十三ヵ所は1番から33番まで順番通りに巡ると、かなり効率の悪いルートになる。そこで独自の順番を考えスタートに選んだのは、自宅から一番近い神奈川県座間市にある8番星谷寺。
 そこから神奈川、東京、千葉、茨城、栃木、群馬、埼玉と回り、ゴールは埼玉県さいたま市にある12番慈恩寺にした。

 寺は関東に点在するのに、なぜ名前が坂東なのか。疑問に思ったので調べたところ、坂東とは足柄峠や碓氷峠の坂から東の地方にあたる関東地方の古称。
 坂東三十三ヵ所が開設される鎌倉時代に、坂東の武者たちは九州まで歩みを進め、途中の西国で三十三観音霊場の事を知った。

 源平合戦後、敵味方を問わない供養や祈願が盛んになり、源頼朝の篤い観音信仰と、坂東の武者たちが見聞した西国霊場への想いが結びつき、関東にも同じような霊場が作られた。そういうことから名称が坂東となったようだ。
 坂東の後には秩父にも三十四霊場が作られ、西国、坂東、秩父を合わせた「日本百観音霊場」へと発展していったという。

 また、なぜ寺の数が三十三ヵ所なのかというのも調べてみた。日本で一番信仰があるのが観音様。宗派を問わず崇められているので、どこの寺にも観音像はある。
 そんな観音様は三十三の姿に身を変え、慈悲と智慧をもって人々を悩みや苦しみから救済する。その数に合わせて観音霊場も三十三になったようだ。

 何だか堅苦しい文章が続いたが、そもそも私は無宗教で信仰心などまったくない。過去に四国と九州の八十八ヶ所も巡ったが、その理由は観光を兼ねた一周が目的。今回も同様に、関東をバイクでツーリングしながらのついでみたいなもの。
 だが、これをやることによって、日本の古き文化に触れることができる。それに、坂東や三十三のように分からないことを調べ、その意味を知るきっかけにもなるのだ。


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